またも著名なスポーツ系公益法人の不祥事です。
「公益社団法人・日本空手協会は、就労環境の改善を求める労働組合の代表を不当解雇するなど強権的な組織運営を行ってきた。体制を堅持するために協会が費やした弁護士費用は1億円に上り、しかもその資金に職員約30人分の退職積立金を流用していたことが、プレジデントオンラインの取材で分かった——。」
出典:https://news.biglobe.ne.jp/economy/0806/pre_190806_3482152903.html
日本空手協会の何が問題か?
上記の記事には明確に書いてはありませんが、公益法人認定法上の「経理的基礎」と「技術的能力」の2点が問題になると思われます。
上記の記事では特別の利益の供与の可能性が指摘されていましたが、それよりも「経理的基礎」と「技術的能力」の方が問題になるのではないかと個人的には思います。
これまでスポーツ団体等の不祥事で内閣府から出された勧告書等を参照すれば分かることですが、公益法人認定法上の「経理的基礎」と「技術的能力」の概念は、かなり広範な内容を含みます。
公益社団法人日本空手協会とは別な団体ですが、スポーツ系公益法人の不祥事として分かりやすい有名な例を挙げると、公益財団法人全日本柔道連盟の暴力問題、助成金問題があります。
参考:公益財団法人全日本柔道連盟に対する勧告について(平成 25 年7月 23 日)
https://www.cao.go.jp/minister/1212_t_inada/photo/2013-024.html
https://www.koeki-info.go.jp/pictis_portal/other/pdf/20130723_kankoku.pdf
この勧告書によると
本年 1 月以降、全柔連において、①女子日本代表選手の指導における暴力問題、 ②(独)日本スポーツ振興センターの助成金問題、③理事による関係者へのセク ハラ問題が、次々と明らかになった。
と書いてあります。これ本当に公益法人なのか?と疑いたくなるような状況ですね。
公益法人認定法には、「暴力はダメ」とか、「助成金の不正流用はダメ」とか、「セクハラはダメ」とか、そういう細かいことは条文には一切書いてありません。
「経理的基礎」や「技術的能力」の概念については、公益認定等ガイドラインに多少の補足説明は書いてありますが、それほど細かいことは書いてありません。
しかし、上記の勧告書では、以下のような理由で全日本柔道連盟に内閣府から勧告がなされています。
① 暴力問題に関し、現場の選手の声を受け止め、組織の問題として対処する仕組 みが存在しなかったこと、また、助成金問題に関し、助成金の受給資格及び「強化留保金」への拠出について不透明・不適切な慣行を問題視せず放置していたこ と等は、公益認定法に定める認定基準のうち「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力」に欠けている疑いがある。
② 一連の問題について、法人の執行部、理事会、監事、評議員会がそれぞれの責 務を果たさず、一般法人法に定められた職務上の義務に違反している疑いがある。
簡単に言うと、公益認定を受けた法人に、法令を順守して適正な事業実施ができる体制が欠如している疑いがあれば、
- 公益認定法に定める認定基準のうち「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力」に欠けている疑いがある。
- 一般法人法に定められた職務上の義務に違反している疑いがある。
というような勧告を当局から受ける可能性があるということです。
このことは、これから公益認定を目指す団体も知っておくべきことです。
そして、記事にあるような公益法人の不祥事がまた1つ明らかになることによって、新規に公益認定を目指す団体に対する審査がますます厳しくなることも覚悟しておくべきです。
上記の記事では
プレジデントオンライン編集部は空手協会に対し、これらの問題点について問い合わせた。小倉靖典専務理事は、弁護士費用に1億円を支出した事実は認め、「遺憾に思っている」と述べた。しかし、「弁護士費用として1億円は適正な金額なのか」との質問に対しては、「コメントできない」とした。
とあります。
日本空手協会は、適正な金額なのかと外部の国民から問われて、適正であると胸を張って言えないような支出をしているということですね。記事を読む限り。
小倉靖典専務理事という人物がどのような方なのか全く知りませんが、法人の役員である以上は、最低限、「協会としては適正な金額と考えています。」程度の回答はして欲しいなと、善良な公益法人を支援する立場として思うわけですが、「コメントできない」と回答を拒否しています。
不祥事を起こしたときほど、国民に対して説明責任を果たす真摯な姿勢が公益法人には求められるはずですが、その意味でも真摯さを欠いた残念な対応です。
日本空手協会のような著名で規模の大きな公益法人が不祥事を起こすと、公益法人制度全体に対する社会の信頼を損ない、真面目に活動している小規模な公益法人の活動まで阻害することになります。
その意味でも日本空手協会の社会的責任は重大です。
別な記事ですが、日本空手協会には、大きな問題があるようです。公益法人認定法以前の問題ですよね。
指導員を兵糧攻めにする日本空手協会の闇体質
最高裁の解雇無効判決も平然と無視
出典:https://president.jp/articles/-/29325
「残念ながらいまの協会は、中原氏の意向をくんだ人たちが中心になっており、空手に取り組む人たちのことを中心に考えているのか疑問を感じます。異論を持つ者を力で排除しようとし、それが裁判所で違法とされても正そうとしない」
「これでは会員や職員も保身を考えて動けないでしょう。協会の上層部はまったく潔くない。子どもに道徳を説く武道に関わる者としてどうなのかという思いです。悪いことは悪いと認め、責任をとってほしい」
と記事にはあります。
「裁判所で違法とされても正そうとしない」ような組織は、公益法人認定法上の技術的能力を欠いている疑いが濃厚です。
記事を読む限り、法人の自己規律や自浄作用に期待できる状況ではないようです。
このような公益法人に対しては、内閣府公益認定等委員会は報告徴収を行い、必要に応じて勧告を行うことになるでしょう。