我が国には3月末で事業年度が終了する法人が多いため、5月から6月にかけてのこの時期は、例年であれば、定時社員総会・定時評議員会での決算承認、役員の改選・重任等の手続きの準備に追われる法人様が多いはずです。
しかし、現在のように新型コロナウイルスによる混乱が生じている社会状況においては、通常の時期に無理に開催しようとせずに、「延期する」という判断も重要です。
書面決議等の通常と異なる不慣れな方法を採用することで通常のスケジュール維持を目指すような努力・工夫自体を否定する必要はありませんが、法人の事務局員が出勤できない等の状況もあり得る中で、不慣れな方法で総会等の準備を進めようとするのは法人の皆様にとって負担が大きいはずです。
内閣府公益認定等委員会事務局から公表されている資料(令和2年5月18日付)には行政庁の考え方として以下のように明記されています。
https://www.koeki-info.go.jp/administration/pdf/20200518_houzinunei.pdf
今般の新型コロナウイルス感染症に伴う影響のように、やむをえない事由により、当初予定していた時期に開催できない場合、その状況が解消された後合理的な期間内に開催していただければ、行政庁としては、その状況を斟酌して対応いたします。
このように、わざわざ資料の冒頭に明記されていることからも、延期は優先的な選択肢と考えて差し支えありません。
行政庁からのお知らせですので堅苦しい書き方ですが、「その状況が解消された後合理的な期間内に開催していただければ、…」ということは、ようするに「延期していいよ」ということです。
内閣府がわざわざ資料の冒頭に書いて説明しているわけですから、関係者の健康・安全を第一に考えて、無理せずに延期するという選択肢も視野に入れてください。
定款で定めた期間を超える延期について
定時社員総会や定時評議員会の延期を考えた場合に、定款の定めとの関係を心配する団体様も少なくありません。
例えば定款に
「定時社員総会(評議員会)は、毎事業年度の終了後3か月以内に開催する。」
というような定めがある場合に、この期間を超えて延期してもいいのか?
その点を心配するわけです。
結論としては、定款所定の時期よりも定時社員総会や定時評議員会が後になったとしても、問題無いと考えられます。
これについては、過去に行政庁が公表している解釈が参考になります。
東日本大震災時の内閣府の解釈
【回答5】
○特定の時期に定時総会を開催すべき旨の定款の定めについては、通常、天災等のよう な極めて特殊な事情によりその時期に定時総会を開催することができない状況が生じ た場合にまで形式的・画一的に適用して、その時期に定時総会を開催しなければなら ないものとする趣旨ではないと考えます。
○したがって、震災の影響により、定款所定の時期に定時総会を開催することができな い状況が生じた場合には,法人法第36条第1項及び同法第179条第1項に従い、事業年 度の終了後一定の時期に定時総会を開催すれば足り、その時期が定款所定の時期より も後になったとしても、定款に違反することにはならないと考えます。
この内閣府の解釈は、震災の影響による場合の話ですが、今回のコロナウイルスの影響による延期にも妥当すると考えられます。
また次のような株主総会についての法務省の解釈も参考になります。
定時株主総会の開催について(法務省の解釈)
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
1 定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて
定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも,通常,天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。
したがって,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。なお,会社法は,株式会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項),事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。
なお、東日本大震災の際にも同様の解釈が法務省から公表されています。
定時株主総会の開催時期に関する定款の定めについて(法務省の解釈)
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/saigai0012.html
東北地方太平洋沖地震の影響により,定款所定の時期に定時株主総会を開催することができない状況となっている株式会社があると考えられます。
特定の時期に定時株主総会を開催すべき旨の定款の定めについては,通常,天災等のような極めて特殊な事情によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合にまで形式的・画一的に適用してその時期に定時株主総会を開催しなければならないものとする趣旨ではないと考えるのが,合理的な意思解釈であると思われます。
したがって,東北地方太平洋沖地震の影響により,定款所定の時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,会社法第296条第1項に従い,事業年度の終了後一定の時期に定時株主総会を開催すれば足り,その時期が定款所定の時期よりも後になったとしても,定款に違反することにはならないと解されます。
延期は理事会で決議する
定時社員総会や定時評議員会を延期する場合、そのような延期の判断は理事会の決議に基づきます。
当該延期は、コロナウイルスの感染拡大防止や関係者の安全確保の観点からやむを得ない延期であることを議事録にしっかりと明記しておきましょう。
議事録に明記されていれば、後日、行政庁の立ち入り検査においても問題なく事情を説明できます。
社員総会・評議員会延期後の役員改選重任等の手続きについて
定時社員総会や定時評議員会が延期されたとしても、延期された社員総会や評議員会でなされる手続きは、通常の手続きと変わりありません。
通常の役員改選重任等の手続きについては下記サイトを参照してください。