スポーツ団体が行った公益認定申請に対して、不認定答申が2件出ています。
公益法人インフォーメーションのリンクをはっておきます。
平成30年7月19日【不認定答申】一般社団法人日本タグフットボール協会
平成30年7月19日【不認定答申】一般社団法人レッドスターベースボールクラブ
この2件の不認定事例、似たようなロジックで不認定になっています。
2つの不認定事例の共通点
それでは具体的に今回の不認定事例の中身を検討してみましょう。
今回の2つの不認定事例は4つの重要な共通点があります。
- 説明の具体性・整合性の欠如が問題になっている
- スポーツの事業の公益性が否定されている
- 一般社団法人の母体がNPO法人である
- 事業の公益性以外にも、経理的基礎が問題になっている
一度に全部は解説できないので、この記事では最も重要な1つ目の点について解説します。
説明の具体性の欠如
公益認定の審査において、不認定の理由になりやすいのが、具体性の欠如です。
「公益認定等ガイドライン」という審査の基準があるわけですが、それには次のように書いてあります。
<ガイドライン抜粋>
個別に説明を求めても、法人からの申請内容が具体性を欠く場合には、内容が不明確であるために、結果として不認定となることがありうる
つまり、審査側の立場から見て、説明が具体性を欠く場合は不認定にされてしまいます。
公益認定の審査は、法人の実態、事実関係の審査です。
確かに、予算書や事業計画書が審査されるわけですが、その予算書や事業計画の裏付けとなっている実態・事実関係が重視されています。
書類は重要なのですが、書類の先にある実態を審査側は知りたいわけです。
提出された書面を重要な手段の1つとして、事実がどうなのか、法人の事業実態がどうなのかを審査側は知ろうとしています。
そのため、提出された申請書の内容が具体性を欠くものであれば、マイナスからスタートです。
提出された申請書だけで、事業の合理性、つまり、公益目的を達成する手段としての合目的性が理解できない場合は、追加で書面の提出を求められたり、役所に呼ばれて、説明を要求されて、事業内容について深く追究されます。
誤解の無いように補足すると、公益認定の制度上、公益認定の審査をするのは民間有識者の合議体ですが、その事前の整理を役人がやりますので、申請法人が直接やりとりするのは役人です。
役人が有識者(の合議体)に法人の事業を説明しますので、仮に、役人の頭の中で申請法人の事業スキームが十分に理解できない場合、明示的あるいは、黙示的な恫喝を伴って申請を取り下げるように強要されることもあります。
申請法人に対して露骨に申請取り下げを強要すると違法な行政指導になるので、賢い役人ほど上手く取り下げさせます。
役人から事業内容について深く追究されたときに、第三者の視点から納得できるような合理的な回答ができないと、「具体的な説明が無い」って扱いになるわけです。
レッドスターベースボールクラブの答申書では以下のような記述がありますね。
団員の応募条件について、申請法人が、本来公1事業の目的に照らしてどのように定めたいと考えているのかどのような理由から中学1・2年になる健全な男子に限定することとするのか、具体的な説明はない。
つまり、この不認定になった法人は、
公益目的を達成する手段として、なぜそのような応募条件が合理的なのか?
という審査側の問いに対して、合理的な理由を具体的に説明できなかったということです。
公1事業の目的に照らして
と答申書に書いてあるのはそういう意味です。
結局、どの法人でも、公益認定の審査で問題になるのはこの点です。
公益認定申請を行う法人であれば、どの法人も、公益的な目的を掲げて事業を実施しているわけです。
実態は不明ですが、少なくても申請書類上ではどの法人もそう主張するわけですよね。
そのような主張に対して、審査をする役人が
- その法人が主張する目的を達成するための手段として、事業の在り方が合理的なのか?
- 公益目的を達成する手段としての合目的性がある事業なのか?
- 民間有識者(第三者)の合議体から疑問や批判に耐えうるような合目的性があるのか?
と法人に対して実態を問いただしたときに、手段としての合理性を具体的に説明できない法人が公益認定の審査に落ちるのです。
逆を言えば、ここをどうクリアするのか、事業の合目的性をどのようなロジックで具体的に説明できるのかが、公益認定取得の鍵になるわけです。
もちろん、クリアする前提としては、事業の合目的性を裏付ける社会的実態・事実関係が存在すること必要です。
説明の整合性・一貫性の欠如
レッドスターベースボールクラブの答申書では以下のような記述があります。
団員の選考についての一連の説明には、論理的な整合性がなく、説明に一貫性が見られない。
確かに、常識的に考えても、法人の主張に矛盾があり、論的な一貫性が欠如しているような場合は、法人の主張を認めて公益認定を出すわけにはいきません。
この事例からも分かるように、公益認定申請においては、法人側の説明が矛盾せずに、一貫していることが求められます。
公益認定申請の説明において論的な一貫性が求められることは、公益認定に詳しくない一般の方でも常識的に理解できると思います。
そこで、皆さんに考えて欲しいこと、想像して欲しいことがあります。
公益認定申請した法人が
「なぜ、説明に矛盾を起こすのか?」
「なせ、一貫した説明ができなかったのか?」
という原因です。
真実は当事者しか分かりませんので、この問いに正解はありません。
厳しい意見をお持ちの方だと
「自分達の事業の説明もまともにできないなんて、単に、この法人がアホの集まりだったからでしょ」
とか
「論理的な思考能力が欠如している団体だから」
みたいな辛辣な答えが出てくるかもしれません(笑)。
ちなみに、私の考えは
というものです。
先にも述べた通り、公益認定の審査では具体的な説明が要求されます。
申請法人としては、申請書で十分な説明をしているつもりでも、
「不特定多数人が受ける利益が不明なので、もっと具体的に説明してください」
「事業の合目的性について、もっと具体的に説明してください」
などと質問が役人から出てきて回答を要求されます。
しかし、役人に回答を要求されても、
「申請書に書いてある以上のことは、説明のしようがない」
とか
「役人から指摘されたような視点からは事業の問題点を考えたことがなかった」
というような状況に陥ることが多いのではないかと推測します。
ちなみに、私のような公益認定の専門家がお手伝いするメリットは、役人からどのような視点で攻められるのか、どのような質問が来る可能性が高いのか、これまでの経験をもとにアドバイスすることで、ある程度は事前に対策を検討できることにあります。
逆に、私のような専門家に頼らずに、完全に自力で公益認定申請に挑むとすれば、
「今まで全く考えたこともないような視点から、突然問題点・疑問点を役人から指摘されて、慌てて回答を考える」
というプロセスの繰り返しになる可能性が高いのが、公益認定の審査なのです。
慌てて考えた回答ですから、全体的な説明の整合性が十分に考慮されている回答なのかといえば、必ずしもそうではないはずです。
そのため、役人からの質問に、その場しのぎで何度も回答しているうちに、自然と説明のつじつまが合わなくなってくるわけです。
その結果、「説明に整合性・一貫性が無い」という問題点を指摘されて不認定になるわけです。
このプロセスを役人の立場から見れば、ネチネチ質問して、論理矛盾や揚げ足をとるきかっけを作ることができ、結果、申請法人を審査で落とすことができるわけです。
今回取り上げた不認定事例以外にも、「説明に整合性・一貫性が無い」という点が指摘されて不認定になっている事例はありますので、不認定になりやすいパターンの1つだと理解しておきましょう。
論理矛盾をつかれて不認定にならないためには、事業内容について第三者の視点から多角的に検討しておくことが必要です。
- 自分達とは価値観や前提知識が異なる者が事業を評価した場合に、どのような疑問、問題点の指摘を受ける可能性があるのか?
- 自分達が行う事業の価値を否定しようとした場合、どのような観点から否定される可能性があるのか?
それを事前に検討しておき、事業全体として矛盾の無い回答ができるように準備をしておくことが重要になります。