今回は長野県の不認定事例を検討します。
公益法人informationで公開されている不認定の答申書はこちら
⇒【答申】一般社団法人高齢者救急119番〔公益認定申請〕
こちらの団体は、公益認定の審査おいて多数の問題点が指摘されており、今後公益認定を目指す団体が公益認定審査上の論点をイメージするための事例としては大変参考になります。
以下、不認定事例の中身を検討してみましょう。
「高齢者及び障害者全般生活介護事業」の公益目的事業該当性についての検討
認定法第5条第1号は、申請法人が公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであることが必要と定めている。
行政手続法に定める審査基準である「公益認定等に関する運用について」(公益認定等ガイドライン) (以下「ガイドライン」という。) によると、「主たる目的とするものであること」とは、認定法第2条第4号で定義される「公益目的事業」の実施を主たる目的とすることとされている。認定法第2条第4号の公益目的事業に該当するか否かは、学術、技芸、慈善その他の公益に関する認定法別表各号に掲げる種類の事業と認められるかどうか(別表該当性)及び不特定多数の者の利益の増進に寄与するものと認められるかどうか(不特定多数性)の両面から判断される。なお、個別に説明を求めても、法人からの申請内容が具体性を欠く場合には、内容が不明確であるために、結果として不認定となることがありうるとされている。
冒頭のこの内容は、内閣府における不認定の答申書にはかならず書いてあると言っても過言ではないテンプレに近い内容です。そのため、長野県も内閣府の不認定答申書に倣った形式にしていると推測されます。
公益認定審査の重要なポイントでもありますので、公益認定を目指すのであれば必ず知っておくべき内容です。
この冒頭の内容は公益認定のエッセンスなので、ここだけで沢山の重要なポイントが詰め込まれているのですが、その中でも重要なポイントを1つ取り上げるとすると、申請内容に具体性を欠くものは不認定になるということが挙げられます。
つまり、公益認定の審査をする側は、公益性の有無を評価する以前の段階で申請法人を切り捨てることができるんですね。
申請書によると、公益目的事業として、高齢者等を対象としたケア等を行うとされている。事業の内容が具体性を欠くため、申請法人に対し複数回説明を求めたが、このことに関する説明はなされず、申請書の公益目的事業の概要に関する記載内容について詳細な説明を求めた際も、「細かく言われても今までの事業を移行して行うため、これ以上のことは書けない」旨の回答であり、チェックポイントに該当する旨の説明も不十分である。
以上により、申請法人が行おうとする事業の内容を具体的に特定することができず、認定法第2条第4号の公益目的事業に該当するか否か審査を行うことができない。
しかも、この答申で不認定になった法人は、審査側から質問されても回答を放棄してしまっています。
「細かく言われても今までの事業を移行して行うため、これ以上のことは書けない」
このような回答を放棄するような姿勢では不認定処分がなされてもやむを得ません。
公益認定を目指す団体さんから相談を受けるとありがちなのですが、
公益認定を目指すような団体さんは、「自分達は良いこと(公益的なこと)をやってるんだから、理解してもらえるだろう」という希望的観測、甘い認識のもとで公益認定を考えている団体さんが多いです。
しかし、現実の公益認定の審査は厳しく、多くの場合、楽観的な期待は裏切られることになります。
自分達の事業について興味も関心も無い第三者(民間有識者の合議体、その事務方を務める行政庁の役人)に、自分達の事業内容を理解してもらい、かつ、その効果が公益的であると共感してもらうことには相当の苦労が伴います。
審査をする側は、申請法人側とは保有している知識や価値観が全く違うわけですからね。公益認定申請は骨が折れる仕事です。
「自分達の主張・考えは役人には理解されない」という前提で申請に臨む位の心構えが必要です。
そういう意識が無いままに公益認定申請を行った法人が、想定外に役人から厳しく事業内容の説明を要求されて、面倒くさくなってしまうと
「細かく言われても今までの事業を移行して行うため、これ以上のことは書けない」
というような投げやりな気持ちになってしまうのも理解できないわけではありません。
役人の対応は厳しいですから。
そうやって申請法人を追い詰めるのが役人の常套手段とも言えます。ただし、このような明らかに説明不足の法人(不認定になることが明らかな法人)に対しては、正式な不認定を出すまでもなく、申請を自ら取り下げるように法人に対して促すことの方が役所側の対応としては多いのではないかと思います。
その点、この法人は正式な不認定処分まで下されていますから、申請法人と行政庁のやり取りの中で何か事情があったのだろうと推測されます。
経理的基礎及び技術的能力についての検討
⑴ 認定法第5条第2号は、申請法人が公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有するものであることを必要としている。
ガイドラインによると、「経理的基礎」とは、①財政基盤の明確化、②経理処理、財産管理の適正性、③情報開示の適正性とされている。②経理処理、財産管理の適正性とは、財産の管理、運用について法人の役員が適切に関与すること、開示情報や行政庁への提出書類の基礎として十分な会計帳簿を備え付けること、不適正な経理を行わないこととされている。③情報開示の適正性については、外部監査を受けているか、費用及び損失の額又は収益の額が1億円未満の法人にあっては営利又は非営利法人の経理事務に5年以上従事した者等が監事を務める体制であれば、適切に情報開示が行われるものとして取り扱い、このような体制にない場合は、公認会計士その他の経理事務の精通者による情報開示への関与に関し、個別に判断をするとされている。
また、「技術的能力」とは、事業実施のための技術、専門的人材や設備などの能力の確保とされている。
事業の公益性以外にも、このような経理的基礎、技術的能力が審査上問題になるということを分かっていない団体さんも多く見受けられます。
⑵ 経理的基礎の②経理処理、財産管理の適正性について、申請書に添付された財産目録等の計算書類は、提出される都度、数値、内容等が異なっており、適正に経理処理及び財産管理が行われているとは言い難い。
残念ながら、この点は言い訳できないですね。適切な決算書を用意する能力が無い法人を公益法人として認めるわけにはいきませんから。
「財産管理が不適切」というような情けない理由で不認定になることを避けるためには、公益法人会計専門の税理士等の活用は必須です。
知り合いに適切な専門家がいない場合は、独力で無謀な公益認定申請を行うのではなく、専門家無料紹介サービス等を活用して適切な専門家の支援を受けられるようにしましょう。
また、③情報開示の適正性について、申請書には金融機関名が記載されているのみで、監事の体制又は経理事務の精通者による情報開示への関与について説明がなされず、判断ができない。
以上により、申請法人が公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎を有するものとは認められない。
③の情報開示の適切性については、監事が税理士又は公認会計士であれば審査はパスされますので、公益認定を目指す団体であれば、税理士又は公認会計士に監事就任を依頼するのが実務的には基本です。
こういう基本が分からずに公益認定申請を行っているということは、私のような公益認定の専門家から全く支援を受けず、基礎的なアドバイスすら受けないで申請を行った法人だと推測されます。
もちろん、経理的基礎がしっかりしており、適切に財産管理がなされていても、事業の公益性について評価を得られなければ公益法人にはなれません。
公益認定審査の「本丸」は、事業の公益性の評価に関する部分です。
事業の公益性の評価に関する部分に集中して役人と議論するためには、公益性以外の論点、つまり経理的基礎や技術的能力には不安の無い状態にして公益認定申請に臨むべきなのです。
そういう意識を持って公益認定申請の準備をしなければ、公益認定を得ることは難しいと言えます。
適切な財産管理は、公益認定を目指す団体として当然の前提と理解するべきであり、この部分で公益認定の審査が滞る可能性が有る団体(経理的基礎が疑わしい団体)は、公益法人化を目指す方針自体を再検討する必要があります。
⑶ 技術的能力について、高齢者等を対象としたケア等を行うに当たっては、専門的人材、設備等が必要になると考えられるが、申請書上、一般乗用旅客自動車運送事業(福祉輸送事業限定)の認可を受けていること及び当該福祉タクシーの「ドライバーはホームヘルパー2級取得者」であることの記載があるのみで、技術的能力について説明が尽くされているとは言い難い。
この法人は技術的能力も問題になっています。
実際の公益認定申請において、
「ある事業を適切に実施するためにはどの程度の能力や体制が必要なのか?」
という問いに一律の基準・答えはありません。
あくまでケースバイケースで判断となりますが、申請法人が主張する公益目的事業の内容や規模に応じて、審査側が納得するだけの十分な説明ができなければ、技術的能力を欠いてるとして不認定になるわけです。
この法人のケースで言えば、高齢者等を対象としたケア等を行うために必要な能力や体制が十分に備わっているとは審査側が納得できなかったということです。
審査側は法人の事業の内容や体制についてかなり深い部分まで審査で見ようとしていますので、申請法人側もそういう意識をもって事業実施の体制を整えた上で、その体制が公益目的事業を効果的に実施する上で合理的な体制であることをしっかりと説明する用意ができていなければ不認定なってしまいます。
この法人の場合は、単なる説明不足なのか、そもそも適切な体制存在しないため、それ以上説明が不可能だったのか、そのどちらなのかはこの答申書からは明らかにはなっていません。
しかしながら、通常、単なる説明不足であれば追加の説明で補うことも可能です。
法人側がそれをしなかったということは、おそらく、この法人は申請書に書いた以上の体制がなく、審査側に技術的能力を十分に説明できるだけの実態をそもそも欠いていたのではないかと推測されます。
実態がなければ説明できませんからね。
実は、公益認定申請を取り下げた団体から相談を受けると、こういうケースが意外と多いのです。
公益認定申請を行ってはみたものの、技術的能力の不足を指摘されて取り下げているケースは少くありません(それ以外にも問題点を指摘されていますが)。
つまり、公益認定申請を行うにあたって技術的能力の必要性について認識が不十分であったり、技術的能力を立証する水準を甘く見積もっていると、公益認定に失敗するということです。
そのため、私が公益認定を希望する団体から相談を受ける際には、技術的能力についても詳しくヒアリングした上でアドバイスしています。
親族等である理事又は監事の合計数の制限について
認定法第5条第10号は、各理事について、当該理事及びその配偶者又は、三親等内の親族である理事の合計数が理事の総数の3分の1を超えないものであることを定めている。
いわゆる「3分の1規制」ですね。これは有名な規制なので、公益認定を目指す団体にとってこの規制が存在することはもはや常識です。
法人の定款にも同様の規定が存在するはずなので、公益認定を目指す法人がこのルールの存在を認識していないことは通常ありえません。
しかし、この法人はどうでしょうか?
申請に際し、申請法人からは、認定法第5条第10号に規定する公益認定の基準に適合することを確認した旨の確認書が提出された。しかしながら、代表理事に聞き取ったところ、理事のうち1名は代表理事の三親等内の親族であるとの説明があった。
申請法人の理事の総数は3名であり、代表理事及びその他の理事のうち1名が三親等内の親族であることから、認定法第5条第10号に掲げる基準に適合しない。
極めて異常な状況ですね。
公益認定申請を行うにあたっては、上記の引用にもあるとおり「確認書」(認定法5条10号・11号違反が無いことや認定法6条の欠格事由に該当しないことを代表理事が確認したという書面のことです。)を提出しますので、法令違反は無いこと確認しているはずです。
しかし、役人からのヒアリングで代表理事が法令違反の事実を白状しています。
理事が3名しかいないのに、「お互いに親族であることを知らない・認識していない」という状況は常識的に考えるとありえません。
つまり、法令違反(「3分の1規制」違反)の事実があり、それを代表理事が認識しているにもかかわらず、それを隠して虚偽の書類で公益認定申請を行ったことになります。
ちなみに、答申書には記載してありませんが、公益認定申請を行うにあたっては、申請を行うことについて理事会の決議が必要です。
行政庁が公表している公益認定の手引きのp14には
申請書の作成後、法人の意思決定(少なくとも理事会の決議)を経た上で行政庁へ申請してください。
とあります。
公益認定を行う団体は、通常、申請書を理事会で承認して公益認定申請を行っています。
ということは、代表理事が単独で虚偽の申請を行ったわけではなく、理事会の承認のもとで法人として組織的に虚偽の申請を行っていると推測されます。
不認定になってもやむを得ないということになりますね。
これから公益認定を目指す団体の皆さんは、こういう不適切な申請をすることがないように注意してください。
結論
以上のことから、申請法人は、認定法第5条第1号(公益目的事業を行うことを主たる目的とするものであること)、第2号(公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎及び技術的能力を有すること)及び第10号(当該理事及びその配偶者又は三親等内の親族である理事の合計数が理事の総数3分の1を超えないものであること) に掲げる公益認定の基準に適合すると認めることはできないため、本件申請については、公益認定をしないこととすることが相当である。
当然の結論ですね。この答申書では多くの問題点を指摘されているので、公益認定を目指す団体が、審査上の問題点をイメージする素材としては参考になります。
公益認定を目指す団体であれば、既に公開されている不認定事例を研究し、反面教師として法人の在り方・事業の在り方を検討することが有用です。
実際、私が公益認定のお手伝いする場合も団体の役員や事務局長を対象として不認定事例を素材にして研修等を行っています。
不認定事例は特例民法法人の移行認定時代の事例も含めてこれまで40以上の事例が蓄積されていますので、これから公益認定を目指す団体はしっかりと不認定事例を検討し、問題点を把握した上で公益認定に臨むようにしましょう。