今回は、表題の不認定事例に関する研究の第3回目となります。
①②の記事を踏まえた上で今回の記事をお読み頂くと、公益認定申請に関する理解が深まります。
これから公益認定申請を目指す方は参考にしてください。
公表されている不認定の答申書はこちらです。
⇒ 2020年1月10日【答申】一般社団法人日本自然文化協会〔公益認定申請〕
答申書に対する第一印象
さて、この不認定答申書を読んだ時に、皆さんはまずどのような感想を持たれるでしょうか。
感想は人によって様々だと思いますが、私の第一印象は、審査側の役人は申請法人を本気で落としにかかってるな、というものです。
役人らしい、陰湿な審査しているなぁという印象です。
この不認定の答申書には、①~⑦までの7つの法令違反(定款違反を含む)の事実が指摘されています。
この答申書に書かれていることが事実であるならば、当該法人は法人運営において極めて基礎的なレベルの法令違反が複数あり、残念ながら、当該法人が公益法人として認定されるにはふさわしくない状況であることは明らかです。
しかしながら、この答申書に書かれている7つの法令違反の事実のうち、6つの法令違反については、通常、公益認定申請書を提出しているだけでは行政側が把握できないはずの事実が含まれています。
つまり、公益認定の審査において、どうにか理由をつけて法人を落としたい行政側が、公益認定の審査で落とす意図を持って必要以上に情報を追加でヒアリングしない限り明らかにならない事実がこの答申書には記載されているのです。
私は上記の答申書を読んでそのように理解しました。
7つの法令違反の概要
答申書で指摘されている7つの法令違反を簡単に説明すると以下のようになります。
- 事業計画の承認を理事会で受けた時期が定款で定めた期限よりも後である(定款違反)。
- 事業計画書を変更するための理事会の承認を受けていない(定款違反)。
- 代表理事が理事会で職務執行状況の報告を行っていない(一般法人法91条2項違反)。
- 監事の報酬を理事会で決定している(一般法人法105条1項違反)。
- 理事会で社員総会の招集決議を行う前に、社員総会の招集通知を発している(一般法人法38条2項違反)。
- 定時社員総会の2週間前の日までに理事会の承認を経た計算書類等を備え置いていない(一般法人法129条1項違反)。
- 定時社員総会の招集通知に監査報告書を添付していない(一般法人法125条違反)。
通常の審査で「分かること」と「分からないこと」
これらの法令違反のうち、④については、通常の公益認定審査のプロセスでも問題になります。
なぜなら、役員等の報酬に関する規程を必ず申請時に添付するからですね。
④の指摘事項は、本来的に添付書類として要求されている書類に法令違反の内容が含まれていたということですので、ある意味当然の指摘です。
しかし、④以外の指摘事項はそうではありません。
通常の審査では理事会議事録は確認されない
新規の公益認定申請においては、申請の前提となった事業計画等が承認された理事会の議事録が添付書類ではありませんので、そもそも申請法人が申請にあたって理事会の承認を受けているのかどうか等を確認されることは普通ありません。
もちろん公益認定申請にあたっては、作成した申請書等を理事会に諮り公益認定申請をする意思決定を理事会などの機関で行うことは当然のことです。
私のように行政書士として新規の公益認定申請の実務に携わっていれば分かることですが、内閣府が現在WEB上で公表している公益認定の手引き(平成24年9月4日版)p14にも「申請書を作成後、法人の意思決定(すくなくとも理事会の決議)を経た上で、行政庁へ申請してください。」という非常に小さな注意書きが、一応なされています。
全体で約70ページに及ぶ手引きの中で、小さな注意書きがたった1カ所にあるだけなので、読み飛ばしてしまう人も多いとは思います。
しかし、そのような意思決定を経た証拠、つまり理事会の議事録は申請の添付書類としてそもそも要求されていません 。添付書類として要求されないということは、すなわち、通常は確認されない事項であるということです。
行政書士として公益認定申請の実務経験があれば分かることですが、新規の公益認定申請の場合には電子申請フォーマットにおいて理事会の議事録の写しを添付するような項目がそもそも存在しません。
実際に私がこれまで公益認定申請をお手伝いした法人は、当然、理事会の決議を経て公益認定申請を行っていますが、「この申請書や事業計画書は理事会の決議を経ていますか?いつ理事会の決議を受けましたか?」等と行政側から理事会決議の有無や時期について確認されたことはありませんし、理事会の議事録の写しを行政庁に提出することもなく公益認定を受けています。
理事会議事録がそもそも添付書類として要求されていないのですから、公益認定の審査において、理事会決議の有無を含めて何ら確認されなくても当然のことです。
公益認定申請と変更認定申請の違い
この点は、類似の手続きと比較するとよく分かるのですが、新規の公益認定申請ではなく、公益認定を取った後の変更認定申請の場合には、変更認定申請に関する理事会の議事録を添付することになっています。
これも行政書士として変更認定申請の実務経験があればわかることですが、変更認定申請の電子申請のフォーマットには「当該変更を決議した理事会の議事録の写し」を添付する項目がちゃんとあります。
実務的な細かい話ですが、ここが新規の公益認定申請と変更認定申請の相違点の1つです。
そのため、変更認定申請の場合は、申請にかかる理事会の承認が欠けていることや、仮に理事会が行われていたとしてもその時期が定款や法令に反しているということが審査側に分かるような仕組みになっています。(そもそも、議事録の写しを添付しなければ、電子申請のシステム上、エラーで申請できないはずです。)
しかし新規の公益認定申請においては、変更認定申請とは異なり、申請にかかる理事会の議事録を通常は提出しないので、行政側が、申請法人を審査で落とすための理由を探す意図、いわば、「粗探し」の意図を持って、必要以上に追加資料として申請法人に対して議事録の確認を求めない限りは、答申書に記載されているような指摘をすることはできないはずなのです。
答申書から分かる審査側の意図
公益認定申請や認定後の変更認定申請の実務経験がない人にはなかなか理解できないと思いますが、私のように10年以上公益法人の支援に携わっている立場からすると、適切な審査プロセスでは受けないはずの指摘を行政から受けているという点で、この不認定の答申書はとても不自然な印象を受けます。
法人を審査で落とそうとしている行政側の強い意図があると私は感じました。
特に、⑤から⑦の指摘は異常です。役人側がどれだけ申請法人の「粗探し」に熱心なんだろうかと呆れますね。
確かに、結果的に言えば、基本的な部分で法令違反を犯している当該法人自身がそもそも問題なのですが、そうだとしても、公益認定の審査の場面で、「社員総会の招集通知に監査報告書が添付されていない」等は、普通は問題になり得ない事項です。
不認定を下す口実欲しさに、法人運営の粗探しをしようとしなければ、知り得ない事項です。
行政側の姿勢として、社会に貢献する団体を育成するために温かい眼差しで審査をしてるのではなく、とにかく「公益認定法人を増やしたくない」という意図を持って粗探しをしているということが良く分かります。
実は、この答申書を読むまでもなく、私個人としては、そのような行政側の消極的な姿勢は公益認定制度発足以来10年の経験で分かりきったことなのですが、そういう行政側の姿勢が、新規に公益認定申請を目指す団体には十分に知られていないようですので、行政側の冷徹な姿勢が如実に表れているという点においては今回の答申書は参考になると思います。
公益認定申請を行うと、このような陰湿な対応をされるのです。公益認定申請を目指す団体には相応の覚悟が必要になります。
近年の公益認定審査における傾向と対策
実は、この不認定事例において指摘されているような事項は、公益認定を取った後の定期的な立入検査において行政から確認される事項でもあります。
特に、③の代表理事の職執行状況の報告や、⑥の計算書類等の2週間前の備え置きについては、公益認定を受けた後の毎年の事業報告のチェックでもよく確認を受ける事項です。
私のように公益法人の代理人として事業報告を行政庁に提出していたり、公益法人への立ち入り検査に同席したりする経験がある者からすれば、答申書に記載された複数の指摘事項は珍しいものではなく、よく見慣れた確認事項ではあります。
近年の公益認定審査の傾向なのですが、新公益法人制度が発足して10年以上が経過し、公益法人への立ち入り検査実績が行政側で積み重なることによって、新規の公益認定審査のプロセスにおいても、立入検査で問題となった様々な事項を参考にして、法人の粗探しをされることが増えています。
したがって、新規に公益認定申請を目指す法人は、近年の公益法人に対する立入検査で実際に問題になっているようなポイントについては把握した上で、当該ポイントについて重点的に自己点検を行い、対策を講じる必要があります。
私自身は、公益法人の立入検査にも同席しており、立入検査の場面で直接役人とも話をしますので、実際の立入検査でどのような事項が問題となり、どのように公益法人側が指摘を受けるのか、実際の経験として理解しています。
そのため、私が公益認定申請のお手伝いをする場合には、第三者から得た伝聞や机上の空論ではなく、実際の立入検査の経験を法人にお伝えした上で、法人運営の見直し、自己点検を行ってもらうようにしています。
もちろん対策といっても、何か特別な小細工を弄するのではなく、不適切な運営を改善し、基本的な法令遵守、適正な法人運営を行うだけなのですが、それが独力では困難な法人様もいらっしゃいますので私のような専門家がお手伝いさせて頂いているわけです。
不認定事例として注意すべき特徴
今回の不認定事例で注意すべき点は、立入検査で問題なるような事項について指摘を受けている当該法人は、当然ですが、まだ一般社団法人であるということです。
つまり、公益法人ではない一般社団法人の状態における法令違反を根拠として法人の技術的能力が否定されている。
それがこの不認定事例の大きな特徴です。
これまでも法人の技術的能力の欠如を理由として不認定とする答申書は存在しましたが、今回のように一般社団法人の状態における理事会等の手続きの不備を根拠として技術的能力を否定された事例は、公益認定制度発足以来、私が10年以上不認定の答申書を研究している中では初の事例ではないかと思います。
極めて当たり前のことではありますが、公益法人として認められてから適正な法人運営を心掛ければいいのではなく、公益認定申請をする前から、つまり、一般社団法人の時代から適切な法令遵守を心がけて法人を運営していくことが公益認定申請を目指す団体に求められているのです。
そのことが改めてこの不認定の答申書から明らかになりました。
公益認定を受ける以前の一般社団法人の状態であっても、法令遵守を心がけて法人を運営することは、ある意味では当然のことですが、公益法人の不祥事が大きくニュースで取り上げられる現代において、これから公益認定を目指す団体に対してこのような内容が不認定の答申書で明らかにされたということには、適正な法人運営を促す注意喚起という側面において、一定の意味があると思います。
さらに言えば、公益認定申請を行う法人に対して、行政側がどのような視点で審査の名を借りた嫌がらせをしてくるのか、行政側が公益認定を出さないようにするためにはどのような観点から法人の粗探しを行い、審査で落としにかかってくるのか、そのような行政側の対応も理解できるという点でも有益な答申書ではないかと思います。
今回の不認定答申書から得るべき教訓
公益認定申請の審査においては、行政側はいいがかりのような指摘を繰り返し、どうにかして法人をあきらめさせようとしています。これは、適正に運営されている申請法人にでさえもそうです。
そのような、ある種の嫌がらせような審査が横行している公益認定審査の現場において、今回不認定となった当該法人は、基礎的な法令が全く遵守できておらず、行政側からの粗探しに対して、つけ入られる隙があり過ぎたとも言えるでしょう。
ノーガードでプロの格闘家に喧嘩をしかけているようなイメージです。今回の答申書を読む限り、残念ながら、全く勝負になっていません。
そのため、事業内容の公益性について議論するまでもなく、不認定とされているケースだと推測できます。
これから公益認定を目指す団体は他山の石としてこのケースを参考にしてください。
今回の答申書に記載されているような基礎的なレベルの法令遵守さえままならない法人は、独力で法人運営を改善することは困難な状況であると推測されますので、独力で公益認定申請を行うのではなく、適切な専門家に支援を依頼すべきであったと言えるでしょう。
私自身は、公益法人の支援をかれこれ10年以上行っていますが、仮に、私や、私と同じ程度の経験のある公益認定申請の専門家が、この法人に対して顧問等で適切な指導をしていれば、少なくとも、この答申書に記載されているようなお粗末な理由で不認定を受けることはなかったはずです。
長年公益認定支援に携わってきた者の1人としては、残念に思っています。