最近、スポーツ系の公益法人が世間を騒がせています。
ニースに対するコメントやネット上の意見を見ると
- あんな団体がなぜ公益法人なんだ!
- 公益法人の認定を取り消せ!
つまり、
という市民の素朴な感情、国民の疑念、公益法人制度に対する不信が表れています。
実は、日本レスリング協会や日本相撲協会に限りませんが、公益法人として認定を受けることができた法人が、なぜ公益認定を受けることができたのか、実質的な理由はだれにも分からないのです。
公益認定を受けられた場合の積極的な理由は国民に公開されない
実は、公益認定を受けた法人に対して、「なぜ公益認定が受けられたのか?」という積極的な理由は行政庁から説明されません。
公益認定申請を行った法人の事業に対して、どのような点が公益(不特定多数人の利益)に資すると評価され、事実認定されて、公益認定を受けることができたのかは、公文書では明らかになりません。
どのような事業であれば公益と評価されるのか、その積極的な理由はそもそも法人に対して説明されないため、国民には分からないのです。
公益認定を受けた法人の答申書は公益法人informationの「答申・勧告・その他決定等詳細 」という部分で公開されています。法人の名称を入れて検索すればだれでも調べることができます。
公益認定答申書の実例
今話題の日本レスリング協会と日本相撲協会の答申書も公開されていますので、具体例として見てみましょう。
これらは特例民法法人の移行認定に関する答申書ですが、新設法人の公益認定の場合も、ほぼ同様の形式です。
- 平成25年02月08日 【答申】財団法人日本レスリング協会〔移行認定申請〕(PDF)
- 平成26年01月24日 【答申】財団法人日本相撲協会〔移行認定申請〕(PDF)
これらを読むとお分かり頂けると思いますが、
(省略…)第100条に規定する認定の基準に適合すると認めるのが相当である。
と結論しか書いていません。
なぜ、基準に適合したと判断したのか、その理由については全く説明がないわけです。
なぜ、この団体を公益法人にふさわしいと判断したのか、実質的な理由の説明が全くありません。
その結果、ある公益法人の答申書を国民が読んだときに、
例えば、
- 「八百長や暴力行為を行っていた団体が、なぜ公益認定を受けることができたんだ?」
- 「あの団体が公益法人として認められる理由が、納税者たる国民の立場からは全く理解できない」
公益認定を認めた理由はなぜ公開されないのか?
ある団体を公益法人として認定した場合に、その実質的な理由が行政庁から公表されない根拠は、行政手続法8条にあります。
行政手続法(理由の提示)
第八条 行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない。ただし、法令に定められた許認可等の要件又は公にされた審査基準が数量的指標その他の客観的指標により明確に定められている場合であって、当該申請がこれらに適合しないことが申請書の記載又は添付書類その他の申請の内容から明らかであるときは、申請者の求めがあったときにこれを示せば足りる。
このように、行政手続法8条は、申請を拒否する場合にのみ申請者(国民の側)に対して理由を説明するように行政庁に義務付けているので、公益認定を認める場合には申請法人に対してさえも理由の説明は不要であり、いわんや不特定多数の国民(納税者)に理由を公開する必要はないということになります。
このような法制度の在り方・運用が適切なのかという点については、行政法学の第一人者である塩野宏先生(東京大学名誉教授)が論文(※)において以下のように問題点を指摘されているところですが、現状の制度はこのようになっています。
公益認定法人はまさにその活動が不特定多数の者の利益の増進に寄与し、したがって税金の優遇措置がそれに連動するのであるから、審議会の判断は、結果のみでなくその理由も広く納税者にも公開されるべきであるように思われる。
※ 2009年日本學士院紀要(第64巻第1号)
「行政法における「公益」について : 公益法人制度改革を機縁として」(上記引用部分はp39参照)